渡辺郁江プロ「雪町と弟」
ちゃお! 皆様はじめまして、渡辺郁江です。 今月のこのコーナーを担当することになりました。 私小説っぽく私のことを四回に渡って語りたいと思いますので、 どうか皆様よろしく

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渡辺郁江プロ「雪町と弟」

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ちゃお!
皆様はじめまして、渡辺郁江です。
今月のこのコーナーを担当することになりました。
私小説っぽく私のことを四回に渡って語りたいと思いますので、
どうか皆様よろしくお願いします。

では、さっそく。


大型連休が終わっても、遠くに見える山々の頭の辺りにはまだ薄っすらと雪が残っていた。
地鶏が有名、ということ以外は特に取り立てて何もない町。
土の匂いと蛙の鳴き声に囲まれた小さな町。
バスが1日1本しか来ないほどの「ド」ではなく、「片」の方が似合うのんびりとした町。

そんな静かで穏やかなところで、
5月9日、私は生まれた。

「東北の人間は寡黙」という世の定説を律儀に全うしている私の両親は、
私が生まれた時の誕生秘話や、幼かった頃の面白エピソードなどをひとつも話してくれないので、
私は物事を記憶できるようになってから、つまり五歳くらいからの話しか出来ない。

私の記憶に残っている幼い私は、とにかく生意気で、傍若無人だった。


私には一歳下の弟がいた。
今では立派な社会人として働く弟だが、幼い頃は私の第一の家来であり、
ママゴトの相手をする、ジュースを買いに行くなどの基本的な家来作業はもちろんのこと、
私の書いた「いくえ新聞」というなにやら訳の判らないものを100円で買わされるという、
ひどい目にもよく遭っていた。

私は弟が大好きだった。
それは彼が私の言うことをよく聞く、という事とももちろん関係があったが、
何よりいつも私の後をちょこちょこ付いてきては、「お姉ちゃん、待ってけれー」と泣き、
私を絶対的に頼っている弟の健気さが、
小さな雪町で暮らす私の存在意義を明確にしてくれているような気がして、
私は弟を心から可愛がっていた。

そんな弟が私に遅れること一年で小学校に入学してくると、
私はなぜだか彼のことが急に嫌いになり、学校内で会話することは卒業まで一度もなかった。
小さな学校だったので、弟と校舎の中で遭遇する機会は幾度とあったが、
私はまるでそこに弟が存在しないかのように振る舞い、友達と会話を続けてそのまますれ違ったり、
あらぬ方向を見詰めてその場をやり過ごしたりしていた。

今思い返してみると本当に意味がわからず、なぜあんな態度をとっていたのか自分の心情を理解出来ないが、
そこには小学生女子特有の気恥ずかしさ、姉弟ゆえの曖昧な距離感などが複雑に絡み合っていたと思われ、
とにかく私は弟との接触を避けていた。

だが弟は、私の後ろから離れなかった。
私たちの学校は四年生から各自で部活動を選択出来るようになっていたのだが、
弟は四年生になった春、私が所属していた陸上部に入部してきた。

弟が陸上部に入部した、というニュースに一番びっくりしたのは父だった。
私は生まれつき手足が長く、手前味噌だがスポーツがよく出来た。
アメリカ遠征の際にカールルイスに接見した時は、子供ながらに興奮したものだ。
それに比べて弟は運動という運動が全くダメで、いざ走ろうものなら、
“すぐ転ぶ、血を出す、泣く”の三点セットがお決まりの運動音痴っ子だった。
そんな弟が陸上部。私は鼻で笑い飛ばしたが、父はご飯粒を飛ばし、
「んだが?!それだば、いがったなー!ケバれケバれ!」と喜んでいた。

しばらくして、地域の小学校がいくつか集まって開催される連合運動大会があった。
その大会に弟が200メートル走の選手として出場することが決まった。
よほどの人材不足なのかと私は嘆いたが、弟は毎日早朝から特訓をし、来るべき日に備えていた。

大会当日。
片田舎によくこれだけ居たな、というぐらいに人が集まり、競技が始まった。
私は二種目で一等賞を獲り、満足気に父と一緒に弟の競技を見守った。

イチについて、よーい、パン!

号砲の乾いた音を合図に、地域の駆けっこ自慢の子供達が一斉に走り出す。
その中に、私の弟がいる。
あの運動音痴で、三点セットの弟がいる。
走っている!
手を強く振って脚を高く上げ、大きなストライドで。

叫ぶ父。

走る弟。


結果は8人中、3着だった。

弟は少し照れながら私たちの元に駆け寄ってきて、
「んにゃあ、悔しい。あとちょっとだったのにな」と笑った。

私はなんだか泣きそうになるのをグッと堪えたが、
横を見ると父が顔をぐしゃぐしゃにして思いっきり泣いていたので、
堪えきれず泣いた。

片田舎の空は青く澄み、雲が緩く浮かんでいた。


あれから数年が経ち、私は東京の空を見上げる生活を送っている。
片田舎の空ほどに澄んではいないが、思ったより空気は悪くない。

先日、弟からメールが来た。

“姉ちゃん、俺、麻雀格闘倶楽部で黄龍になったぜ。記念になんかけれ~(^^)”

どうやら弟は、あの小さな雪町で麻雀格闘倶楽部を楽しんでいるらしい。
私は弟がファンだという瑠美ちゃん亜樹ちゃん、そして小島先生の写メールを送った。
すぐにお礼メールが来た。

“サンキュ!!やっぱり瑠美ちゃん亜樹ちゃんは、めんけぇなあ。姉ちゃんも負けないように頑張ってな ('-^v)♪ ”

言われなくても頑張ります、と独り言を呟いてから携帯を閉じ、
私は今日も全国のプレーヤーと対戦するため、麻雀格闘倶楽部をプレイしに出掛ける。


もう君が、私の後ろを付いて来ていなくても。

いつか君と、対戦できることを夢見て。
  • │2008-04-11 13:34:58│ カテゴリー:ゲーム│ コメント(8)
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