前半はコチラ。
http://mp.i-revo.jp/user.php/dtlzyffi/entry/555.html
今回は後半です。
何やら前半も一緒に乗っかっていたので、少し修正を加えました。
それではどぞー。
**********
私は有りのままを骸さんに話した。
自分が丸腰の事、これから東の果てに行って、四護神様の力を借りる事。
我ながら情けないくらい吃ってて、ちゃんと話が伝わってるかどうか心配だったけど、骸さんは黙って私の話を聞いていた。
骸「ふむ、なるほど……貴様が丸腰ならば、俺は手を出さん。俺は姑息な手が嫌いでな。貴様が後に力を付けるのなら、俺は貴様と正々堂々戦いたい。」
霞「じゃ、じゃあ……?」
一条の光が私に降り立った。
もしかしたら、助かるかもしれない……!!
けれど、現実は私の思うほど易しくはなかった。
骸「しかし、貴様を殺すのは俺の任務だ。」
そう言い放つと、骸さんは左の手の平を私に見せ、こう続けた。
骸「五分間やろう。尻尾を巻いて逃げるも良し。その五分間で、俺を倒す手を考えるも良し。走って、走って、走り続けて、仲間に助けを求めるも良し。好きにするがいい。……しかしだ。」
そして……
骸「五分経った時、お前の命は無いと思え。」
霞「!!」
死の宣告を叩き付けられた。
完全に、ここは戦場になって、私と骸さんは、今この時を以って完全に敵対したのだ。
思わず私は山頂に目をやる。
まだ二合目を登ったか登らないかの現在地。山頂の光は、まだ淡いままだった。
五分間……
五分間で私は山頂に辿り着ける?
五分間で私は骸さんに対抗できる力が身につけられる?
五分間で、私は殺されずに済む?
気が付くと、私は怯えていた。今まで出会った事もない存在に、格別の恐怖を抱いていた。
五分間でなんて、無理に決まってる。
間違いなく殺される。
その後、きっと皆が、お母さんたちが殺されると思ってる。
その瞬間、私の中で決定的な何かが弾け、全身が一気に震え出した。
妄が私に何かしきりに叫んでるけれど、私の耳には、もう何も聞こえなかった。
霞「っっ……ひ、う……っ……」
怖い、怖い。
無理、無理よ。
助けて、お母さん、虚、恍……!!
涙が頬を伝い始めた。
いやだ、死にたくない。
骸「どうした?数え始めて良いのか?」
びくっ。
と、私の身体が少し跳ねた。
心臓が大きく波打っていたのは、この時に初めて気が付いた。
独りでは、家にいる事すら恐怖という私たちの性情なのに。
自ら戦うなんて、義に真っ向から反すると思ってしまう私たちの性情なのに。
何もかもが日常と違う今の状況に、次第に目眩すら錯覚してしまう。
戦わなきゃいけない?
助けて、皆。
戦わなきゃいけない……
皆に会いたい。
戦わなきゃいけない。
戦わなきゃ、皆に会えない?
戦わなきゃいけない!
皆に会う為!
恐怖感、絶望感、背徳感、そしてそれらによってフラッシュバックされた孤独感。
それらが混ざり合い、真っ黒、ううん、真っ白になった時、ふと心の真ん中に残されていたのは、私たちの根本的な性情だった。
戦う。
皆の為に。
霞「……なさいよ。」
骸「ん?」
霞「み、みみみ、見てなさいよっ!!??ごっ、五分後にあたしの、すんっごい力っ、あ、あ、あんたに、見せてあげるんだからっ!!!」
まだまだ声は震えてたけど、なんとか言えたわ。
私は意を決して山頂目指して一気に駆け上がった。
戦う、戦う。
皮肉にも私は平和の為に、自分たちの義に反する行いをし始めていた。
けれど、もう私に迷いはなかった。
戦場に立たされ狼狽していた私は私によって殺され、信念という武器を持って颯爽と戦場を走り始めた私がそこにはいた。
そんな私の背中に、骸さんはこう声をかけていた。
骸「ふっ……凄い力、か……面白い。良いだろう!楽しみにしているぞ!!」
そう言い終えた後、スーツの中から取り出したのは金の懐中時計。
骸「時……それは万物に与えられた平等の絶対的干渉……」
秒針は絶えず動いていた。
無情とも思えるほどの一定の間隔、一定の音、一定の運命で。
骸「まずは、一秒…」
妄「ヅヅーッ!!ヂヂヂーッ、ヅヂャー!!」
霞「ごちゃごちゃ言わないっ!!!良いっ?あたしはこの五分間で、絶対頂上に辿り着くのっ。確かに骸さんは怖かったけど、四護神様の力さえ手に入れば、こっちのものよっ!」
我に返ったら、妄がめちゃくちゃに怒鳴られた。
「落ち着け!」とか「早く走るぞ!」とか「何やってんだ!」とか、言っていたらしいけど、これは別に、聞いてなくても良かったかも。
私が走りながらも、「あんな啖呵切りやがって」とか、散々に言われたわ。
妄「ヅー……」
霞「心配しないのっ!山道駆け上がるくらい、なんて事ないんだからっ!」
全く、こんな状況でも相変わらずの一言居士なんだから……いや、お節介かな?
ふと私はある疑問に出くわした。
あれ。なんで、山道駆け上がるのがなんともないんだろう。
私の身体が丈夫だから?んー、逞しいような、あんまり女らしくないというか……
サンダルが頑丈だから?いやいや、っていうかなんでこんな時にサンダルなんか履いて……
霞「え?……」
見ると、私のサンダルが、ううん、私の脚までもが、ぽうっと光り輝いていた。
しかもその光は、山頂のあの淡い光にそっくりだった。
霞「な、何これ?……私、どうしちゃったの?」
<それが影力……我々の力の根源……>
突然、雄大な調子の、穏やかな声が聞こえてきた。
私は思わず歩みを止め、身構えてしまう。
霞「誰?誰なの!?」
<我は四護神が一柱、名は東門護天(とうもんごてん)。そなたは夢深が長女、霞殿とお見受けする……>
驚いた……!四護神様が私に語りかけて来てる!
原理はどうあれ、私もお母さんみたいに神様と話が出来ている事に喜んだ。
そんな事言ったら、アマテンたちだって神様だけど、アマテン以外の神様との会話は、これが初めてだった。
霞「東門護天……凄い!四護神様と、神様と話が出来てる!」
<はしゃいでいる暇はありませんぞ、霞殿……時は過ぎ行くのみにある故。>
霞「そ、そうだ……急がなきゃ!」
私は前にも増して山坂を駆け登った。崖になっている部分なんかも跳び越して、ひたすらに山頂へと向かっていった。
私の急ぎ足を確かめたであろう後に、東門護天様は会話を続けてきた。
<だが、よくぞ敵の威風に耐えましたな。さすがは夢深殿の娘……>
霞「そんな事より、この影力ってのは何?私の足はどうしちゃったの?」
東門護天様はゆったりと私の問いに答えていった。
神様だからなのかも知れないけど、割とのんきね。
……と思ってしまったのは秘密にしておく。
<私の元へ急ぐというそなたの心が、自然とこの地にある影力を、そなたの足へ集中させているのだ……影力を行使、即ち使う事ができるのは影界の住人のみ……そなたの足は今、影力に満ちているのだ……>
霞「へぇー……これが影力なのか……あ。疲れないのも、その為なの?」
前に本で、高山病について見た事が少しあった。
山に登ってなくてもそこらへんはちゃんと勉強してるわよ。
なんて、こんな無駄な事を考えてしまうのも、東門護天様の調子に飲まれてしまっているからだろうか。
<左様……そなたは肺や心臓といったものも影力を行使して、強化している……もう七合目まで来たのには、気付かぬか?>
霞「え!?」
言われて初めて後ろをちらと振り返る。
さっきから驚きっ放しだ。気が付けばもうそんな所まで私は来てたんだ。
霞「本当だ……わ、我ながら凄い……いや、凄すぎるわ!!」
<八合目からは平坦に……なるものの、岩がごろ……ている……所が……気を……付……>
東門護天様の声が、まるで川へ流される葦の様に、次第に遠ざかっていくのがわかった。
遠ざかっていくのに加え、所々がかすれて聞き取れない。
霞「あ、待って!」
<敵が……山の木々を……>
敵。
それとある気配に先に気が付いたのは妄だった。
妄「ヅッ……」
“敵”はまたも、私に現実離れした現実を見せ付けて来た。
霞「嘘……山が、吹き飛ばされていってる……」
骸「五分経った…約束通り、任務を遂行させてもらうっ…!!」
一言で言えば、疾風迅雷。
骸さんは私以上の、有り得ないくらいの速さで山を駆け登って来た。
私が少し遠回りした道も何のその。
私と骸さんとの直線距離、最短距離を走り抜けて来ていた。
よく見ると、大太刀を逆手に持って、障害物となる岩を斬り崩している。
それだけじゃない、切り立った崖ですら、その駿足と、靴と崖との少しの摩擦に任せて駆け登っている。
……それは直進できる訳だわ。
私は更に強く念じて、速く、速く走った。
追い付かれたら、命はないから……!
八合目を過ぎてから、東門護天様の言う通りの地形になって来た。
傾斜はかなり緩いけど、何かそれ自体に力がありそうな、奇形の大岩がごろごろと転がっていた。
さすがに息も荒くなってきて、サンダルも紐がちぎれそうになっていた。
妄が今度こそとばかりに私に進言してくる。
岩に身を潜めろ。
ここからはゆっくり、隠密に行動するべきと。
後ろの爆音が近くなってきたのもあったし、何か時間稼ぎできないか頭を捻りながら、私は岩陰に隠れた。
骸さんの声が聞こえてきたのはまもなくだった。
骸「いない……岩陰に身を潜めた、か……良いのか!?俺は姑息な手は嫌いだと先に言っておいた!にも関わらず、貴様がその手を使うのであれば!こちらも分相応の返答をさせて貰おう!!」
私の速さに自負していたのもあってか、骸さんの俊敏さはなかなかに腹立たしかった。
恐怖というか、嫉妬心の方が強かった。
ちょっとだけ逞しくなってる私に、心の中で拍手。
霞「にしても何よあいつ……なんであんなに速く走って来るの?……しかも息一つ切らしてないし……」
そんな事をぶちぶち呟いていたら、連想ゲームみたいにお母さんと、お母さんの言ってた言葉が頭から引っ張り出されてきた。
霞「……確か、お母さんが、裸足になると良くてそれでなんとかって言ってたな……」
過去の言葉に導かれるままサンダルを脱ぐと、先ほど以上に影力の存在を強く感じた。
これは最初から脱いでおいた方が良かったなとこれまた強く感じた。
その時、私は我ながら秀才だなと思う、一計を閃いた。
そうだ、私を見せれば、骸さんは動きを止めるはずだから……
私は今まで足に感じていた影力を、身体の外に出す事を試みた。
その頃骸さんは、私を探す為、かなり強引な手を使っていた。
骸「隠れた自分を呪え。どうせそう遠くには居るまい。」
そう言うと骸さんは持ち直していた大太刀を、私のいない岩に向かって振り下ろした。
下ろしきった後、岩はばっくりと真っ二つに割れ、その大きななりを横に倒した。
その大音は私にも届き、私をなかなかに焦らせていった。
もうすぐ、もうすぐで出来そう…!
骸「これもはずれか…」
私と骸さんの差が徐々に縮まっていく。
私は意を決し、骸さんの前に踊り出た。
霞「っ!……」
骸「ん?ほう……現れたか……その分だと、まだ丸腰のままの様だな。自分の無力さでも悟ったか……それとも気でも触れたか?」
霞「っ!!」
真っ正面から骸さんに突っ込む私。
骸さんは呆れたような眼差しを私に向けていた。
骸「正面から、か……なかなか潔いが……甘すぎるっ!!!!」
霞「!!!」
勝負は一瞬だった。
大太刀が、私の身体を通る。
私の身体もあの大岩と同じ末路を遂げた。
無残にも横一閃された私の身体。
辺りには夥しい量の血に……染まってなどいなかった。
この時に、骸さんは“私”に気が付かなかったのだろうか。
骸「影界の住人は、こんなものか……呆気ないな……」
骸さんが“私”の髪を掴んで上半身を起こす。
すると“私”は光を発しながら、すうっとその身を消し、あのちぎれたサンダルだけが、その場に残っていた。
驚く骸さんの、その後の推察は鋭かった。
骸「かっ、傀儡だとっ!?」
憤慨で顔を歪め、きっと睨むその先に、山頂の門を目指す、本当の私がいたのだった。
骸「あいつっ…!!」
妄「ヅー!」
霞「大成功ねっ!正直、あんなに上手く作れるとは思ってなかったわ。」
そう、私は自分の分身を作ることに成功したのだ。
途中まではできたんだけど、どうにも私になりきれてなかった。
そこで見つけたのが、あのサンダルだった。
私が身に付けていたものなら確実と思い、それは見事に大当たり。といった具合。
霞「これが影力か……ふふっ、良い物手に入れたわ!」
霞「……けど……裸足ってのは、ちょっと痛いわね……」
硬い岩肌も、砂の地べたも全部感じるけど、そこは我慢することにした。
そしてついに、山頂、そこに聳え立つ門を発見した。
霞「見えたっ!!」
門前に辿り着く。門は青銅みたいなのでできていて、丈は3メートルそこそこ。
早速私は呪文を……
骸「待てぇぇぇぇぇっ!!!!」
霞「!!??」
妄「……!?」
骸「一度ならず、二度までも姑息な手をっ!許さんっ!!許さんぞぉぉぉぉっ!!!」
姑息な手が嫌いなのは本当らしい。
骸さんは私にそう吼えると、大太刀を構えた。
……何か、仕掛けてくる!
(お嬢!早く呪文を唱えやがれっ!!)
その時、私は聞き覚えのあるような声を聞いた。
東門護天様じゃない。もっと身近な……
骸「『迫撃Impossible』!!」
霞「!?」
突風が、私の背中の方角から吹き荒れる。
骸さんの攻撃は、有り得ない速さを超えた有り得ない速さだった。
電光石火。稲光の様な速さで、骸さんは私目がけて突っ込んできた。
砂埃が、まるで爆弾の様に弾ける。
舞い上がり、踊り、揺らめいて、やがて煙が晴れ、視界が開けてくる。
骸「……俺とした事が、熱くなりすぎた様だ……」
霞「呪、唱。が、たい、てい。じん、しゅ、し、かい、よう、が、てい、がん……」
骸「何っ!?」
私の声は、確実に呪文を唱えていた。
骸さんは声を上げ、私の生存に驚愕していた。
霞「え、めい、かすめ。しん、めい、とうもんごてん。しょう、が、がん。終、呪。」
呪文は漢字に表すと、こうだ。
“呪唱。我貸体。神守此界用我体願。依名霞。神名東門護天。承我願。終呪。”
呪文の意味はよく解らないけど、要するにお願いしますって事らしい。
それと、先ほどの声の主と同じ声が、私の髪から聞こえてきた。
妄「本っ当……熱苦しくて、息が詰まらぁ……」
骸「きっ、貴様はっ…!!」
霞「み、妄?今の声は妄なの?」
妄「お嬢、話は後だ……それより、俺の力で限界まで固めてみたんだが…大分髪の毛が斬れちまった……」
はらはらと、私の髪が地に落ちる。
私の髪が、骸さんの大太刀に対抗していたのだ。
突風が吹き荒れたとはいえ、あの突進を受け止められるなんて、現状の驚きと共に、妄の凄さを感じた。
それにしても……
霞「……妄っ。後でしっかり説明して貰うからねっ?」
妄「……へーいへい……」
すると、門の内側から光が放たれた。
淡い光でなく、もっとハッキリとした光が、私を包む。
霞「な、何!?光っ…!?」
骸「しまった!!ぐおぉっ!!」
その光は、門が開くにつれ大きくなり、大きな輝きを放ち続けた。
骸さんは光に圧倒され、動けなかったらしい。続けざまの攻撃はなかった。
すると光の中から、先ほど途絶えたあの雄大な声が聞こえてくる。
東門護天「汝が願い、聞き届けたり。我が名は東門護天。主よ、共にこの戦を鎮めようぞ。」
東門護天様の姿は、なんていうか、鳥のような外見だった。
のんきな調子と打って変わって、速そうな印象だ。
影力の光に包まれ、神々しい雰囲気をこれでもかと醸し出していた。
その光は、たちまち私を力で満ち溢れさせた。
霞「す、凄い……力がみなぎってくる……これは、東門護天様の力なの?」
東門護天「否。これ全て我が力のみにあらず。主と主が従者、そして我が力によって生まれる力に候。」
妄「さて、っと……役者は揃ったな。」
私は光を両腕で遮っていた骸さんの正面に堂々と立ち、こう大見得を切った。
霞「どぉ?骸さん。登場が遅れたけど、ここからが本番よっ!?」
我ながらかっこいいわ。ちょっとしびれちゃう感じ。
ここに、私は四護神様の力を手に入れた。
骸さんと対峙して、ふふっと小さく笑うと、骸さんも笑みを返してきた。
私はもちろん、骸さんにも、勝算があるような感じだった。
骸「言ってくれるな……だがな、それは俺の台詞でもある事を忘れるなよ?……」
~第五章に続く~